【parallel _123_world】

自分も知らないもう一人の自分、あなたの中にも。

肋骨おじさん【短編】

#parallel123world52[短編9]

 

いい感じの喫茶店で読書がひと段落して、夕飯にしようとメニューを頼み、エビピラフを待っていた。奥のテーブルで、男男女の3人組が店を出ようと席を立った、ギターを持った男がグラスを落とし割った。そのタイミングで中年男性2人が店に入ってきた。割れたグラスをまたぎ、自分の席の斜めうしろに座った。

 

席に着くなり、

「俺は酒は呑まないんだよ。でも、コミュニケーションのための酒は面白いから呑む。」

と言った。思わず心の中で

「飲むんやないかい。」

ってツッコミを入れた。続けざまに男は、

「肋骨にも限りがある。脊髄は...。」

と、言った。いったい何があったんだ。

肋骨にも限りがある。なんとなくわかる、幾度となく肋骨を折り、もう折れる肋骨もない。でも、それはお酒を呑んだから起こった粗相なのか、ただ折ったのか。ぐるぐると思考は回り、答えには辿り着かない。ドンドン、男の話に引き込まれる。それに、脊髄はどうなったんだろう。わからない、なぜ続きを話さない。

「話してやろうか。肋骨のこと。」

と、男は向かいに座る連れに言う。連れは何も言わない。いや、気になるから聞いてくれ、肋骨を折った理由を聞きたい。ピラフを食べ終わり、読書を再開しようとしたが、話が気になり過ぎて読書をすることをやめた。その後も、男は話し続けた。連れの男は、ずっと相槌を打つだけ。

「俺は底辺の男。その下だから、お前は地面に潜ってるぞ。と言ってやったんだよ、息子に。」

と今度は、息子との会話を回想していた。なんだなんだ。さっきから、面白いぐらい名言を残していく。その後も、将棋の騎士『藤井聡太女流棋士の話。土偶。舌癌になった堀ちえみ東京オリンピック。アーチェリー。切手。話がドンドン出てくる。

 

だが、肋骨を折った理由は話さなかった。

 

喋り倒して、満足したのか

「よしっ、じゃあとりあえず店を出よう。」

と、席を立ち。前に行った店の勘定が安すぎると言いながら、会計に向かった。

 

読書への意欲は返してくれなくていいが、肋骨を折った理由は聞かせて欲しかった。

 

それにしても、この店は。