【parallel _123_world】

自分も知らないもう一人の自分、あなたの中にも。

軟骨の穴【短編】

#parallel123world56[短編10]

 

数年前に、軟骨にピアスの穴を開けた。あれから、時間が経ち、大学を卒業し、社会人になった。仕事をする時に、軟骨にピアスはできない。だからだ、穴が塞がりかけた。化粧をする時に、耳に手を当てて気がついて、思いたって針を刺した。少し太めの針で、穴が大きすぎて、向こう側が見える、くらいだった。

 


向こう側は、見たことのない世界なのか、新しい世界なのか。今まで生きてきた世界だが、違って見える。そんな感じだ。初めてピアスを開けた時、初めてお酒を呑んだ時、初めてタバコを吸った時。そんな感じだ、今まで生きてきた世界と、変わらないはずなのに、今までとは違う感じ。ジャスミンとアラジンが、魔法の絨毯に乗って歌う、まあ、そんな感じだ。

 

 

 

その、大きくあいてしまった、穴。塞ぎたくても塞げない。嫌なのに、なんか、笑えてきて。何回も見てしまう。鏡ごしにみえる、その穴の向こう側。また、何年後、わからないけど、塞がるかもしれないこの穴を、今は少しだけ。今は少しだけ、誇らしく感じる。

 

 

 

今を生きることが、明日への糧になる。なんて、綺麗事は言えないし、明日の不安を拭えない、今。でも、今は今だけは、この大きく太くあきすぎたピアスの穴を、触りながら、少し強くなれた気がして。明日がきても、怖くないと、言い聞かせながら、部屋の明かりを消す。