【parallel _123_world】

自分も知らないもう一人の自分、あなたの中にも。

お弁当のはんぺん【短編】

#parallel123world57[短編11]

 

弁当を持って、小走りで玄関に行く。そんな僕の背中に、母は、

「お昼ははんぺんだから。」

と。はんぺん。なんとも言えない。嬉しくも悲しくもない。水曜日と一緒、週の終わりでもなく始まりでもない。その中間。僕の通う、高校は頭がそれほど良くもないし悪くもない。スポーツがそれほどできるわけでもないができないわけではない。はんぺんみたいな学校だ。駅まで、自転車を使い、それから電車。都心から少し離れた、しかし、そこそこ住みやすい。はんぺんみたいな街。裕福でもなく貧乏でもない、はんぺんみたいな家族。

 

 

 

そんな、はんぺんみたいな高校に通い、はんぺんみたいな街に住み、はんぺんみたいな家族に生まれた、僕、まさにはんぺんだ。

 

 

 

 


こんなにもはんぺんと言ったものの、はんぺんとはなんだろう。とふと思い、携帯で調べた。

【はんぺん】

魚肉(主にさめ類)にヤマノイモなどをすりまぜて、半月形などに蒸しかためた食品。はんぺい。

と書いてある。なかなか、ハードな食べ物ではないのか。この組み合わせに、さらに、蒸しかためるめるという、技。はんぺんもなかなか、いいのではないかと、自分の高校、街、家族、自分自身を少し見直せて気がした。

 

 

 

知らないだけであって、知れば知るほど、噛めば噛むほどみたいな、スルメイカのように、味が出てくるのだ。そのはんぺんをまだ、口にも入れてないのに、勝手に思い上がりはやめよう。そんな事を考えながら、昼がくるのが待つ。

 


昼を告げるチャイムが鳴り、はんぺんを食べる時がきた。他のおかずには目をやらず、今日、気になっていたはんぺんを、箸で優しく掴み、一口で。

 

 

 

 

 

 

「やっぱ、はんぺんだわ。」

午前中いっぱいの、はんぺんへの気持ちを返して欲しい。いや、この裏切らない所が、いいのかも知れない。

特別さを求める事は、若さゆえある。はんぺんより、唐揚げだ。しかし、歳を重ねていく事で、はんぺんの良さもわかる。

 

 

 

 


とりあえず、完食し、弁当の蓋を閉める。

「ご馳走さまでした。」