【parallel _123_world】

自分も知らないもう一人の自分、あなたの中にも。

合鍵渡す時【短編】

#parallel123world89[短編21]

 

 

「これ、合鍵。」

突然、君が渡してきた。合鍵。

「えっ?あ、うん。」

それしか言えなくて、なんとなく受け取った。

まだ、会って10時間ほどしか経過してない。昨日の夜、泥酔している君を見つけ、ほっとけなくなって家に送った。なんとなく、そのまま心配だったから君の家にいた。どこの誰かもわからない。そんな奴に、君は平気で鍵を渡す。

 

 

 

「はい、合鍵。」

付き合って5ヶ月。そんなある日のデートの帰り、いつものように家まで君を送る。いつもは、別れを惜しみ立ち話をする。今日は、ちがう。君が合鍵をくれた。どういう意味か、この先には結婚とか、そんなものが待っているのか。君のことは、まだそんなに知らない。たった5ヶ月で、自分の部屋に勝手に人をはいらせてもいいのか。そんなものなのか。

 

 

「何かあった時のために、合鍵です。」

あなたが、歳をとり一人で生活するのが不自由になった。歳が離れていると、こんなこともある。若いカップルみたいに、初々しい合鍵交換ではないが、あなたに寄り添っていける幸せは感じる。できないことが増えても、それはそれでいい。私があなたの杖になる。

 

 

「これ、合鍵。」

ふと思い、君に渡した。すごく、びっくりした顔で見てきた。でも、なにも驚くことはない。たった10時間しかたってない人に、なぜ鍵を渡すのか。って言う顔。なんでって、引っ越してきたばかりで鍵をなくすから。この人ならいいかと。

 

 

「はい、合鍵。」

5ヶ月付き合ってみて、なんとなく離したくないと思い。合鍵を渡してみた。反応はいまいちなきがするけど、これは一種の鎖になるのかも。こんな風にしか、愛情表現ができない不器用さを恨む。本当は、ただそばにいたいだけ。

 

「何かあった時のために、合鍵です。」

できていたことが、できなくなる不安と恐怖。しかし、そんな時に、支えてくれる人がいることへの幸せ。あなたに迷惑をかけたくないが、そうなることも覚悟している。もし自分に何かあったらこう思うだろう、あなたがいることへの感謝しかないと。